久しぶりに読書再開

 ここ3ヵ月ほど、寝ても覚めても『Johnston’s Underground type』(Justin Howes、Capital Transport Publishing)とその日本語訳のゲラを読み続ける日々が続き、他の本を読む時間はほとんどなし。そのため、『本の話・続』(山下敏明、室蘭民報社)1冊を読み終えるのにひと月もかかりました。
 たまたまなんですが、この『本の話・続』に知人が出てきてびっくり。「タトル・コーポレーションから、スコットさんという若いアメリカ人が 私を訪ねて来ました。」(p. 155)とあって、「アイヌ関連の写真資料」「ペドロ西友吉」「蝦夷切支丹史」 等々のことが書いてあります。このスコットさんは、まもなく出る『ジョンストンのロンドン地下鉄書体』の企画を持ってきた方で、翻訳等々で今も頻繁に連絡を取り合っています。
 で、スコットさんと出会う切っ掛けがエディション・シナプスの金子さん、金子さんを私に紹介してくれたのが紀伊國屋書店北海道営業部の山岸さんという方なんですが、実は「面白い本があるよ」と山下敏明氏の『本の話』(2004年)と『本の話・続』(2010年)を教えてくれたのが、その山岸さんでした。なんだか縁を感じて、ブログに書いておくことに。
 この山下敏明氏、長年図書館司書をされていた方で、書物に関する知識が半端ではありません。本好きにはたまらない内容です。それに、なにより司書としての見識が素晴らしい。

百科事典があれば何でも分かると思うのは、浅慮と言うもので、百科事典の各記載事項は、ありていに言えば、物事を調べる際のヒント、ないしは、とば口にすぎません。それを補ない深めるのが、丸毎一冊その主題で書かれた本と、その「類書」なのです。(中略)例えば、寿司の本を一点購ったあとも、それで終わりとせず、寿司の本が出る都度、その中味を書評その他で吟味して、所蔵に値すると判断すれば、直ちに購って「類書」を増やしていくことに留意せねばなりません。その時、要求されるのは、万般に対する持続する好奇心と、種種の主題に応ずる本が刊行されるたびに見逃さない注意力です。(p. 55)

本の話―室蘭民報掲載・1989(平成元年)第1回-1996(平成8年)第200回

本の話―室蘭民報掲載・1989(平成元年)第1回-1996(平成8年)第200回

 (↑「続」の方はまだ載ってなかった)


 地下鉄本の進行が少し落ちつき『本の話・続』も読み終えたので、久しぶりに新刊をチェックしに三省堂書店に行って見つけたのが、『そして、僕はOEDを読んだ』(アモン・シェイ、田村幸誠訳、三省堂)。あのOEDを読み通した人がいるなんて! 『大菩薩峠』の100倍は大変そう。
 OEDは『Oxford English Dictionary』のことで、世界最大ともいわれる英語辞典。全部で「2万1730ページあり、およそ5900万もの単語が使われている。最新版は1989年に出版され、全20巻、重さはちょうど62.5キログラム」(p. 43)というから、私よりも重たい、とてつもない代物です。

 もし、ものすごく有用であるにもかかわらず、忘れられて、見事なまでに非現実的になった単語なんかに関心があるなら、ぜひ本書を読み進めて、単語を愛した男の奮闘を楽しんでほしい。読者のみなさんに代わって、僕がOEDをAからZまで通読してみました。(p. 9)

なんてことが書いてある序文を読んだだけでも、これが面白い本であることが伝わってきます。まだ読み始めたばかりですが、著者の執念とユーモア溢れる書きぶりがとてもいいですし、それに、なぜか泣けます。

僕は、これまでに一度も、OEDの編纂者が、スペースを節約するために単語についての重要な情報を削ったかもしれないという疑いをもったことがない。(p. 46)

 ああ、書き写していてまた泣けてきた。
 本書の内容の大半は、著者がOEDで見つけた面白い単語を、AからZまで順に著者独自の解説をつけて紹介していくという形で進みます。たとえばその冒頭を飾るのは、

Abluvion(名詞)洗い流される物質や物
 おそらく、誰もが、これまでに配水管に流れていく汚い風呂の水を凝視し、それを表す単語があるなんて考えたことはないだろう。しかし、今、この瞬間からそんな単語が実在することを知って生きていかなければならなくなった。(p. 19)

 一つ項目を挟んで、

Acnestis(名詞)動物の肩から腰にかけての部分で、かこうと思っても手が届かないところ
 OEDを読み始めてすぐにこの単語に出会えたことを非常に光栄に思う。名前なんて絶対にないと思っていたものを表す単語が実在していたことを知るのは、いい知れぬ喜びであり、俄然、辞書を読むという発想自体は、全く道理に外れたものではないと思わせてくれた。(p. 19)

 こんな単語も。

Cellarhood(名詞)地下室が地下室である状態
 この単語は、tableity(テーブルがテーブルである状態)やpaneity(パンがパンである状態)と並んで、誰もが描写する必要を感じていないものを表そうとする、英語の飛び抜けた実力を示す素晴らしい例だ。(p. 49)

 bookhoodやbookityなんて単語もあるのかな?
 私にぴったりの単語もありました。

Fornale(動詞)

 この意味は、本書でどうぞ。

そして、僕はOEDを読んだ

そして、僕はOEDを読んだ