石川桂郎『剃刀日記』


剃刀日記 ──シリーズ 日本語の醍醐味(2)
石川桂郎
「死人の顔を一度剃ったことがあった。」(「薔薇」より)
嘘か真か、日常に虚構がまぎれ込む、石川桂郎面目躍如の珠玉短編集。
 家業の理髪店を営むかたわら、小説や随筆をものした俳人石川桂郎の第一著作集『剃刀日記』は、一見淡々とした日常を描いているように見えて「ほとんどがつまり虚構の作」という驚嘆の短編集である。虚実のあわいを自在に行き来する作風がゆえに、次作『妻の温泉』は直木賞候補にあがりながらも小説とみなされず賞を逃す。そんな石川桂郎が、版が変わるごとに手を入れ続けた『剃刀日記』の最終形28作品と、初期の版のみに収録され姿を消した9作品および後記を拾遺し、一冊にまとめた。
※七北数人氏を監修者に迎えた「シリーズ 日本語の醍醐味」は、“ハードカバーでゆったり、じっくり味わって読みたい日本文学”をコンセプトに、手に汗握るストーリーではなく、密度の濃い文章、描写力で読ませる作品、言葉自体の力を感じさせる作品を集成してゆきます。
2011年12月20日発行 四六判・上製 328ページ
定価2310円(本体2200円) ISBN978-4-904596-03-6

 目次などの詳細は烏有書林:『剃刀日記』石川桂郎で。

 石川桂郎、今となってはご存じない方も多いと思います。でも、内容の素晴らしさには太鼓判を押します。
 かろうじてちくま文庫『名短篇ほりだしもの』で読める「蝶」や「薔薇」もいいですが、その他にも名品佳品がゴロゴロあります。
 七北数人氏の「解説」には、

 「花輪」では、日中戦争以降、日本で床屋をいとなむ中国人、源さん親子の身になって苦労を共にしているような筆致だ。町内あちこちで浮き出てくる微妙な差別意識。(中略)そんな源さんの葬式にあらわれる、ラストの恩寵。読んでいて思わず身震いした。神様もときに、味をやる。その劇的な映像は、実際見たもののように、まぶたに焼きついて残っている。この一作だけでも、一九四二年以来の収録となる「拾遺」を本書に入れた価値は大きい。
(中略)石川桂郎のような特異な才能が、図書館にもめったに蔵書がなく、古書業界で高額の値で取引されている現状は残念きわまりない。

とあります。
 私も「花輪」のラストでは鳥肌が立ちました。だまされたと思って、一度読んでみてください。正真正銘、隠れた名品です。
 もし『剃刀日記』が好評なら、『妻の温泉』や『残照』も出したいな、などと、七北氏とともにタクラんでいるところです。→烏有書林の本があるお店(リアル&ネット)

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