名古屋活版地金精錬所について

 名古屋活版地金精錬所が廃業を考えているそうです。
 以前、名古屋活版を取材させていただいたことがあるんですが、『印刷雑誌』のバックナンバーを調べてみると、もう6年も前になるんですね。
 最近名古屋を訪れた嘉瑞工房の高岡昌生さんの話だと、資金繰りに困っての廃業とは違うようですが、注文の低迷にやる気をなくしているようです。それにしても、このまま廃業してしまうのはなんとももったいない。ない文字は母型から製作してくれるし、活版印刷まで請け負ってくれる、貴重な鋳造所だと思うんだけど。なんとかならないものだろうか……。
 当時書いた記事(『印刷雑誌』2006年3月号)を、少し加筆訂正して転載します。活字が足りなくて困っている方々、注文するなら今のうちです。そして、名古屋活版存続のために、できれば、継続的な発注を。
*関東地方からの発注の際には、必ず旧角・新角のご確認を。下記「一緒に組めない6号活字」を参照ください。


(追記:今年6月での廃業は思い直し、もうしばらく事業を継続することになったもよう。ひと安心です。→10/1のコメント欄で、ケイジ様という方から年内をメドに廃業らしいという情報をいただきましたが、11/5に名古屋活版様から電話をいただき、現在廃業の予定はなく、事業は継続していく、との力強いお言葉をいただきました。頑張ってください!)


(2014年12月追記:とうとう本当に廃業準備に入ってしまったようです。先日嘉瑞工房の昌生さんに長宋体の清刷りをお願いしたら、もう長宋体は破棄されてて刷れない、とのことでした……)

後世に残る出版物

名古屋活版地金精錬所


現在ではほとんど見かけなくなった活版印刷。しかし,少部数の名刺,各種案内状や賞状などで,シャープな文字品質が求められるような印刷物には,今も金属活版が用いられている。出版印刷の分野でも,書肆山田のように今も活版印刷を使い続けている出版社があり,また,自費出版でどうしても詩集や句集を活版印刷で出したいという需要もあるようだ。


【毎月500社から活字を受注】
名古屋市南区要町の名古屋活版地金精錬所(鈴木宗夫代表)は,原字の設計からベントン式彫刻機を使っての母型制作,活字の鋳造と販売,活版印刷物の制作までを手掛けている。
 同社の工場の周りには,廃業した活版業者から譲り受けた活字鋳造機や活版印刷機が,ブルーシートをかぶせた状態でたくさん置かれていた。これらは現在使用している機器が故障したさいに備え,部品取り用としてストックしてあるそうだ。工場に入ると,現役稼働中の50台を超える活字鋳造機が出迎えてくれた。



50台の鋳造機が所狭しと並ぶ工場内


 同社では,明朝体,呉竹(ゴシック)体,正楷書体,宋朝体,各種欧文書体など,初号(42ポイント相当)から7号(5.5ポイント)もしくは6ポイントまで,様々な書体を取り揃えている。現在,顧客名簿には約2500社あり,そのすべてが活版印刷会社として稼働しているかどうかはわからないが,毎月400〜500社から活字の注文が入ってくるそうだ。



鋳造機から出てくる初号活字。母型をセットし,地金を流し込むと,正方形の活字が次々とできあがってくる


【一緒に組めない6号活字】
北海道から九州まで,全国の注文に対応しているが,活字によっては大きさの規格が違うため,注意が必要となるそうだ。
 東京を中心とした関東地方と,名古屋や大阪など他の地域では,たとえ同じ号数でも活字の大きさが違うため,サイズによってはそのまま同じ版で使用することはできない。これは,ポイント活字と号数活字との併用が容易になるよう,他の地域では「6号=8ポ」となるように号数活字の大きさを変更したが,東京では変えなかったからだそうだ。ポイント活字と一緒に組めるものを「新角(しんかく)」,組めないものを「旧角(きゅうかく)」といい,旧角とポイント活字では,初号,2号,5号の活字は一緒に組めるが,その他の1号,3号,4号,6号といった活字とはサイズが合わないのだ。(*注1



活字がびっしりと詰まった活字棚。現在約150トン分を常備している


【ない文字は原字から制作】
同社では,ベントン式彫刻機用の原字の設計から行っているため,たとえ母型がない文字であっても,新たに作ることができる。弊社が発行している『欧文活字』(*印刷学会出版部で発行していた復刻版)でお馴染みの(有)嘉瑞工房も,長宋体(長体宋朝体)は同社から購入している。嘉瑞工房の名刺で使っている長宋体の漢数字は,縦組用に原字から書き起こしたものだ。通常,長宋体の活字ボディは縦長であるため,縦組には向かない。そこで,縦に組んでも字間が空きすぎないデザインを特注したのだそうだ。



ベントン式彫刻機でパターンをなぞり母型を制作する。パターンは,原字を元に画線部分を凹型とした文字版のこと


 名古屋活版地金精錬所の鈴木代表は,「活版印刷オフセット印刷と比べて文字がくっきりとシャープ。褪色も少ないため長期保存できる。後世に残したいものにはやはり活版印刷」と語る。しかし,年々詩集や小説など数十ページを超える出版物を請け負える活版印刷会社が少なくなっている。そこで同社では,今後は活字鋳造だけでなく,活版印刷物の制作も積極的に行っていく予定だ。また,和紙メーカーと協力し,手漉き和紙と活版印刷それぞれの特徴を活かした新商品の開発も進めている。(編集部U)



組版したものを結束糸で縛り,句集1ページ分の版が完成


印刷学会出版部発行『印刷雑誌』2006年3月号より転載)


*注1
 私の理解不足のため、この記事の記述は不正確なものでした。調べ直した内容を以下に書きます……が、これで合っているかどうか、今ひとつ自信が……。参考程度にお読み下さい。


 明治初期、本木昌造活版印刷を導入するさい、活字の大きさを表すために号数制が考案された。これがここでいう「旧角」。
 旧角は、それぞれ3系統〈初、2、5、7号〉〈1、4号〉〈3、6、8号〉に分かれ、各系統ごとなら倍数の関係にあるため一緒に組みやすいが、違う系統のものは倍数関係にない(若干の誤差がある)ため、同時に使いにくかった。
 そこで、1962年に日本工業規格(JIS)で活字の大きさを標準化するさい(JIS Z 8305:1962 活字の基準寸法)、すべてをアメリカン・ポイント(1 pt=0.3514 mm)ベースで統一し、号数に相当するサイズも5号8分(5号の8分の1。5号=10.5 ptなので、1.3125 pt)を基準に微調整・整理された。これが「新角」と呼ばれるようになった。
 ただしそのとき、JISでは「号」という名称は採用されず、号数に相当する大きさには、「10.5/8ポイントを,それぞれ 3, 4, 6, 8, 10, 12, 16, 20, 32 倍した大きさのもので,なるべく使用しないものとする。」と但し書きがつけられた。要は、今後はポイント制活字を使い、号数活字はもう破棄しちゃえ、ということだったようだ。


上図のPDFはこちら→go_katsuji.pdf


 とまあ、こんな感じみたいです。なので、旧角は号数活字だが、JISで微調整された新角は号数相当活字、と呼んだ方が正確なのかもしれない。ややこしい話ですみません……。