『文字と楽園』読了

 『文字と楽園 精興社書体であじわう現代文学』(正木香子著、本の雑誌社)を送っていただいたので紹介しますね。
 本書は、三島由紀夫金閣寺』の口絵を皮切りに、村上春樹ノルウェイの森』、ミヒャエル・エンデ『鏡のなかの鏡』などなど、これまで精興社書体で組まれ発行されてきた文芸書のページ写真とともに、各作品にまつわる著者自身の思い出や内容紹介を綴ったものです(ざっくりでスミマセン)。
 著者の正木さんにとっては3冊目の単著になると思います。1冊目については以前に書いたことがあるので、ぜひこちら(→書評空間:『文字の食卓』)もご覧ください。本書とも重なる部分が多いと思います。2冊目の新書は、どうも著者が「新書」という器を意識しすぎて力んでしまったように見えて(面識はありませんが……)、なんだか窮屈な感じがしたんです。でも、この3冊目ではまた本領を発揮されているように思いました。私自身、精興社明朝がもともと大好きということもあり、とても楽しく読めました。文字好き、そして文学好きにはお薦めの本です。

 ちなみに精興社書体というのは、印刷会社である精興社の専用書体で、他の印刷会社さんに発注しても使うことができないものなんです。こんなのです。

精興社明朝

『紫苑物語』(石川淳、槐書房)より

 ベタで組んでもゆったり見える平体気味の仮名が、とても心地いいんですよね。精興社明朝については、以前趣味で書いていたブログでも何度か触れたので、よろしければそちら(→「小さな部屋」)もどうぞ。

 今のデジタルフォント化された精興社明朝もいいのですが、やっぱり上の『紫苑物語』のような活版時代のものは格別の美しさだと思います。古本屋さんにいけば沢山ありますので、ぜひぜひ見てみてください。古本屋さんを覗いていて、「岩波書店+精興社+牧製本」の活版本に出会うと、なんだかあったかい気分になるんですよねー。