『黄金風景』太宰治

 2021年6月15日前後発売予定、「シリーズ 日本語の醍醐味」の新刊を紹介します。


黄金風景 ──シリーズ 日本語の醍醐味(9)
太宰治
「生きていることへの感謝の念でいっぱいの小説こそ、不滅のものを持っている。」(「感謝の文学」より)
何度も自殺未遂を繰り返した太宰は、底抜けに人を愛する、限りなく優しい男だった。心温まる話と、めくるめく言語マジック。愛とユーモアに満ちた清新な作品集。全23篇。

 坂口安吾織田作之助らとともに無頼派と呼ばれた太宰治の文学は、いまでも他の追随を許さぬ独自の輝きを放ち、愛読者は世界中に広がり続けている。
 陋巷のマリアたちに捧げられた「黄金風景」「新樹の言葉」「俗天使」「母」、ノスタルジックな街と人が哀切に立ち現れる「老ハイデルベルヒ」「帰去来」、エロティックで愉快で少し不気味な「陰火」「女人訓戒」「清貧譚」、巧みな話術で読者を翻弄する「懶惰の歌留多」「春の盗賊」、繊細な感性で心の破片をコラージュした「葉」「創生記」「HUMAN LOST」など、ヴァラエティに富む太宰の文学世界を精選。思いがけないほど温かで、人間を愛してやまない太宰の本当の姿がここにある。

※七北数人氏を監修者に迎えた「シリーズ 日本語の醍醐味」は、“ハードカバーでゆったり、じっくり味わって読みたい日本文学”をコンセプトに、手に汗握るストーリーではなく、密度の濃い文章、描写力で読ませる作品、言葉自体の力を感じさせる作品を集成してゆきます。
2021年6月19日発行(6月15日ごろ発売予定) 四六判・上製 352ページ
定価=本体2,400円+税 ISBN978-4-904596-12-8


【目次】

虚栄の市
敗北の歌
放心について
感謝の文学
陰火
走ラヌ名馬
創生記
音に就いて
HUMAN LOST
黄金風景
懶惰の歌留多
新樹の言葉
市井喧争
俗天使
女人訓戒
春の盗賊
老ハイデルベルヒ
清貧譚
帰去来
一つの約束
親という二字

解説/七北数人


 太宰治
 日本人なら知らない人はいないほどの作家ですよね。「晩年」「斜陽」「人間失格」……今も読み継がれる作品を挙げていくと、枚挙にいとまがありません。
 そして、この醍醐味シリーズ第一弾『アンゴウ』の著者、坂口安吾の盟友でもあります。
 シリーズ監修者・七北数人氏の本書解説にはこうあります。

新潟で安吾について講演をした折、車椅子の若い女性が来場されていて、彼女は大事そうに『アンゴウ』を抱え持っていた。この本に出逢えたおかげで、死を思いとどまることができた、と彼女は言う。私は全身に鳥肌が立つほど感動した。ああ本当にこの本を作ってよかったと、大きな意義を感じた。
 彼女のおかげで、本シリーズに太宰が入ることになった。太宰の本も無数に出ているが、私にとって心の糧であり続けた太宰作品の、その大切な部分を伝えられるような作品集を作りたい。これを読んで死ぬのをやめてくれる人がいるといい。そういう気持ちで本書を編んだので、同じ無頼派という以上に、安吾篇と対になる作品集になっていると思う。
(中略)
 太宰には埋もれた作品なんてないと言ってもいいぐらい、どの作もよく読まれていると思う。そんな中でも作品集への収録が比較的少なく、蔭の大傑作と言いたいような作品を厳選してみたら、おもに二つの傾向の作品群が集まった。
 心温まる話と、言葉の魔術師と呼ぶにふさわしい作品と。

 新潟でこんなことがあったなんて、私もこの解説を読むまで知りませんでした。いやあ、本当に、『アンゴウ』を出して、よかった。本当によかった。
 そして、この『黄金風景』も、いま生きるのに苦しい人、悩んでいる人たちに、ぜひ読んでもらいたい。

 夜の次には、朝が来る。(「懶惰の歌留多」より)

 そんな希望が湧いてくる一冊です。

 本書が並ぶお店は、来週あたりから随時烏有書林の本があるお店(リアル&ネット)に反映させていきますので、ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。

〈余談〉
 最初にこの本をつくり始めたとき、ビブリア古書堂ではありませんが、『晩年』の初版本を勝手にイメージしながら書体などを決めていきました。で、途中でもしやと思って国会図書館のサイトを覗いてみたら『晩年』の初版本がデジタルで公開されており、そこで使われていた書体がたまたま私が選んだのとそっくりで息を吞みました。まあ全く同じではありませんし、そもそも活版印刷の時代ですから、著者や編集者がわざわざ書体を選ぶようなことはまずなかったでしょうが、不思議な縁みたいなものを感じました。

追記:比較画像↓です。かなりそっくりじゃないですか!?


砂子屋書房版『晩年』初版(昭11。左)と烏有本(右)