『ロンドン地下鉄書体』の進捗状況、その2

 お待たせしてすみません。『ジョンストンのロンドン地下鉄書体』、いま本文の最終チェック中で、まもなく表紙周りに取りかかります。

 少し内容を紹介すると、

 これはエドワード・ジョンストン(Edward Johnston)が1916年にデザインしたジョンストン・サンズ(Johnston Sans)の大文字のデザインです。
 左ページは最初期のデザインと改訂版、右ページがほぼ完成版です。
 最初期のデザインを見ると、Wには5種類、Xにも幅が広いものと狭いものの2種類があり、J、S、Q、Rやセミコロンなど、ジョンストンが様々な形を検討していたことがわかります。もっと前の最初のスケッチでは、ほんの少しセリフがついた、ちょっとカッパープレート・ゴシックっぽい形だったようですが、そのスケッチは現在行方不明とのことで、本書には幸いにも一文字だけ残っていたという「U」の字だけが掲載されています。


 左ページの図版は、ロンドンに行ったことのある人にとってはお馴染みのブルズアイ(標的)マークです。二つ並んでいますが、左は地下鉄公社の仕事を請け負っていたウォーターロー&サンズ(Waterlow & Sons)社の試作で、右はその字間などをジョンストンが修正したもの。右の方が遥かにすっきりと奇麗な字並び(特に上下のリボン)になっていることがわかります。ロンドンの地下鉄やバスで使われているこのマークを見ると「ロンドンに来た!」と感じるくらい、象徴的なマークですよね。
 右ページからはニュー・ジョンストン書体の章です。New Johnstonといえば、1980年代以降現在までロンドンで使われている河野英一氏のデザインが有名ですが、ここではジョンストンが亡くなってからニュー・ジョンストンが作られるまでの間に制作された書体も色々と紹介されています。下の図版は、1973年にベルトルド・ヴォルペがデザインしたジョンストン書体のイタリック版ですが、これはロンドン交通局の意向に合わなかったらしく、一度も使われることがなかったそうです。


 河野英一氏には、本書の日本語版に推薦文を書いていただきました。
 その中で河野氏は、

機能的に必要な形態変更以外はオリジナルのスタイルを固守したが、書体が多少太ろうが痩せようが瓜二つだと見えるよう大胆に特徴を強めたりして、視覚調整とは似顔絵を描いているかのようだと感じたことも憶えている。(「推薦の言葉」より)

と書いていらっしゃいます。1916年にデザインされた金属活字・木活字の時代の文字を、写植・デジタルフォントにするにあたり、時代に合った姿に生まれ変わらせるには大変な苦労があったと思われますが、「似顔絵を描いているかのようだ」の一言に、オリジナルを尊重された河野氏の姿勢が表れていると思います。

 河野氏がデザインした現行のNew Johnstonはロンドン交通局でしか使えませんが、ジョンストンのオリジナル書体を元にして作られたフォントは、購入して使用することができます。P22 Type FoundryのLondon Underground(Johnston Undergroundとも。Underground Proもある)と、International Typeface CorporationのITC Johnstonです。P22版はオリジナルそっくり、ITC版は少し現代風にアレンジされているようで、イタリックもあります。


 10月下旬から(本書とは別件で)訪英するので、ジョンストンゆかりの地のディッチリングにも足をのばし、ディッチリング・ミュージアムエドワード・ジョンストン協会にも伺う予定です。訪問の様子はこのブログで紹介しますね。
 本当はこの日本語版を持ってエドワード・ジョンストン協会に伺いたかったのですが、ちょっと間に合いそうにないです……。刊行は11月初旬かな。でも急いで出して悔いが残らないよう、「ゆっくりと急げ」でいきたいと思います。